DJ向けのヘッドホン「Sennheiser HD25」が実はPUBGに適していた - アークSTAFFレビュー
Sennheiser HD25はある程度ヘッドホン等に詳しい人であればご存知かもしれないが、1990年に初代が発売され、マイナーチェンジを挟みつつも一部のユーザーからは支持され続けているロングセラー商品である。ゲーム向け製品とは異なり、音楽を聴く“リスニング目的”で多用される製品ではあるものの、FPS(ファーストパーソン・シューター)、特にPLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS (以下PUBG)で使用する上でのポテンシャルとともに紹介していきたい。
経緯 - PUBGのサウンド表現の特異性
筆者はPUBGを始める以前はOverwatchを中心に、音に関してそこまで重要視されないゲームをプレイしていた。 かねてより同社のHD650を使用しており、快適な装着性や聞き疲れのしない音質に満足していたが、ここ半年の間にPUBGをプレイするようになってからはHD650では音の発生源の方向を認識しにくいことに気が付いた。
PUBGでは敵の位置を細かに把握する必要があるため銃声や足音、車の走行音をしっかりと聞くことがエイミングと同等に重要事項と考えている。
そのため、室内の空調やPCファンの音で足音が聞きにくくなってしまうことを考えると開放型(オープンエア)は賢い選択肢ではないだろう。 また、ゲーム内の環境音が複数同時に鳴っているとき、例えば足音が自分のものなのかどうか等を把握するためには解像度やダイナミックレンジの高い必要が出てくる。 さらに、音がどの角度から鳴っているのかを把握するため、定位の良さが必要となる。
前述の条件のもと、実際に音を聞きながらあらゆるヘッドホンを試してみたところSennheiser HD25に行きついた。
HD25 スペック
メーカー | Sennheiser |
ヘッドホン構造 | 密閉型 |
ドライバーユニット | ダイナミック |
感度 | 120dB |
周波数特性 | 16 ~ 22,000 Hz |
インピーダンス | 70Ω |
プラグ形状 | 3.5mmステレオミニプラグ(L型) |
接続ケーブル | 1.5 m ストレート ( 片出し右側 ) |
本体重量(ケーブル、プラグ含む) | 約166g |
付属品 | 6.3mm変換アダプター |
「HD25」は、Sennheiserのロングヒット作「HD25-1 Ⅱ」のニューパッケージングバージョン。 パッケージ右上にDJ&STUDIOと表記されているようにラウドな場所でのモニタリングに適したサウンドのプロ向けのスタンダードモデル。 今回はゲーミング向け、特にPUBGプレイヤー向けのレビューとなる。
レビュー - HD25でPUBGをプレイしてみて
テスト環境
- 【CPU】Intel Core i7-4790K
- 【M/B】ASUS MAXIMUS VII HERO
- 【GPU】ASUS ROG-STRIX-GTX1080TI-O11G-GAMING
- 【RAM】G.SKILL F3-2400C10D-16GTX
- 【OS】Microsoft Windows 10 Pro 64bit
- 【オーディオインターフェース】RME Fireface UCX (USB接続)
まず、HD25をリスニング用途として音楽を聞いた感想は、よく言われているように音色の傾向としてドンシャリ色が強い。(低音と高音の強調が顕著なこと) しかし、解像度の高さはしっかりとあり、聞いていて楽しい歯切れの良い音が鳴る。 音場(音の鳴る空間の表現力)は非常に狭く、クラシックやジャズなど空間を表現するような音楽を聴くにはもっと最適なヘッドホンがあるだろうが、ロックやエレクトロ、ポップ等であれば相性は抜群である。
本題であるPUBGでの使用感は端的に言って最重要課題の「音の方向が直感的に把握できる」ためこのゲームと相性の良いヘッドホンであると思う。
前述していたように、銃声や足音、車の走行音の方向を瞬時に直感で認識できる。 これは、ハウジング内空間が小さいという点が寄与しているのではないかだろうか。
人間が音の鳴っている方位を理解する方法として、まず左右に関しては単純に左と右の音量差でわかる。 一方で、前後の関係は耳の耳介部分(じかい、耳の飛び出ているところ)の複雑な形状によって周波数が変化しているのを経験則で脳が理解している。
FPSゲームでは立体音響レンダリングという技術を用い、どのような音を聞かせれば前後左右のどこから鳴っているのかを再現している。 多くのヘッドセットではこの再現された音に対して、耳介部分で余計な反射や反響、回折などが起き、再現された音が変わってしまうため、音の方位が分かりづらくなっているのではないだろうか。
この問題を確認するためイヤホンを用いてみたが、やはり方位が非常にわかりやすい結果となった。 イヤホンでは外耳部分で音を鳴らしているため耳介部分の干渉がない音を聞いていることとなる。
これらのことから、ハウジング内空間が小さいHD25では、耳介部分での音の変化が少なく、音の方位を認識しやすい結果になったと考えている。
接続しているサウンドデバイスにもよるが解像度とダイナミックレンジも非常に優れている。 ゲーム向けヘッドセットの大半の製品は解像度が低く、細かな音の違いを見逃してしまうことが多い。 中には高いものもあるもののHD25ほど高いものは見当たらなかった。
解像度の高さは、敵の足音と自分の足音の聞き分け、遠くを走っている車両の音、レッドゾーン空爆にまぎれた足音等を把握するのにいかんなく性能を発揮できる。
一方で、軽量ではあるものの装着感に関しては非常に人を選ぶだろう。 側圧がきつく耳への圧迫感があるため、個人差はあるだろうが長時間の使用は困難なように思える。 筆者はYAXI社の「for HD25 Comfort」というイヤーパッドを取り付けることによって装着感を改善した。 これにより長時間の使用でも困難なく使用できている。
また、もう一つの難点として、マイクが無いことがあげられる。 複数人でのプレイが多いこのゲームでは連携のためにボイスチャットは必須となる。 これはゲーム向けの製品ではないため仕方のないことではあるのだが、Antlion Audio社の「ModMic 4/5」やスタンド型マイクを使うことで解決するのが良いだろう。
参考商品 - ModMic
メーカー | Antlion Audio | Antlion Audio |
型番 | GDL-0420-JP | GDL-0500-JP |
マイクタイプ | コンデンサー | コンデンサー |
マイク集音特性 | 単一指向性 | 単一指向性 / 無指向性 |
マイク周波数特性 | 100 Hz〜10 kHz | 100 Hz〜10 kHz |
マイク感度 | -38 ± 3 dB | -38 ± 3 dB |
マイクインピーダンス | 2.2KΩ | 2.2KΩ |
S/N比 | >50+ dB | >50+ dB |
動作電圧 | 1〜10V | 1〜10V |
最大電流(2.0V時) | 500 µA | 500 µA |
最大SPL | 110 dB | 110 dB |
接続I/F | 3.5mm金メッキステレオミニプラグ | 3.5mm金メッキステレオミニプラグ |
ケーブル | 3.3m(ケーブル長)/ 2.5mm(ケーブル直径)/ コアキシャルケーブル | 1m+2m(ケーブル長)/ 2.5mm(ケーブル直径)/ 2芯コアキシャルケーブル |
マイクユニット | 最大175mm 自由に曲げられるグースネック | マイクブーム + 20cmケーブル + ステレオミニプラグ /1芯コアキシャルケーブル |
ミュートスイッチ | インライン | 3.5mmミニプラグ (オス/メス)/ ミュート回路に低ESRタンタルコンデンサ使用 /長さ:7cm |
電源 | プラグインパワー方式 | プラグインパワー方式 |
本体サイズ | W210 xD15 x H11mm | W220x D 15x H10 mm |
本体重量 | 36g (ケーブル含む) | 14g (ケーブル含む、延長ケーブル含まず) |
マイク周波数特性 | -- | 30 Hz〜17.5 kHz |
マイク感度 | -- | -26 ± 3 dB |
マイクインピーダンス | -- | 2.2 KΩ |
S/N比 | -- | 58+ dB |
アーク参考価格 | 読み込み中 | 読み込み中 |
製品詳細 | 製品詳細 |
総評 - コストはかかるが価値は十分あり
イヤーパッド・マイクを購入することを考えると3万円近い出費とはなる。 しかしながら、PUBGでの圧倒的な優位性を考えると出費がかさむ点を差し引いてもお勧めできる逸品であることは間違いない。
定番であるGAME ZEROやHyper X Cloudシリーズでもよいが、よりこだわりったゲーミング環境を構築しているFPSゲーマーにSennheiser HD25は最良の選択肢になるのではないだろうか。
まとめ - ひと手間かけた自分だけのゲーミングデバイス
- 音はドンシャリ(低音と高音の強調が顕著なこと)
- 高解像度(音がきめ細やかに聞こえること)
- 音の方向が分かりやすい
- 高い遮音性
- 軽量
- 強い側圧で人によっては合わない場合がある(ただしイヤーパッド交換で改善)
- マイクがないため必要であれば別途用意する必要がある